ザカー

 ザカーは、アッラーがムスリムにその拠出を義務づけられた、少量の財産です。ザカーは富める者が、貧者や恵まれない人々の困り事や必要を解消したり、それ以外の目的や狙いを達成したりするために支払うのです。

ザカーの目的:

 アッラーは偉大な数々の目的ゆえ、ムスリムにザカーを定められました。その一部を、以下に挙げてみましょう:

  1. 財産への愛は、それを貯めこみ、それに執着させることへと人間を躍起にさせる、人の本能です。そこでイスラームの教えは、吝嗇や意地汚さといった悪徳から心を清め、この世とその美しさへの愛情を断つために、ザカーの支払いを義務づけたのです。アッラーは仰せられました。『彼らの財産から、彼らを清め、育む、施しを受け取るのだ。』(クルアーン9:103)
  2. ザカーの拠出により、緊密さと親しみという教えが実現します。なぜなら人の心というものは、自分によくしてくれる人を愛するように出来ているからです。こうしてムスリム社会の構成員は、お互いに支え合う堅固な建物のごとく互いに愛し合い、団結しつつ生きるのです。そして窃盗・強盗・詐欺などは、減少します。
  3. ザカーによって、全世界の主アッラーにしもべとして仕えることと、かれへの完全なる服従・降伏が達成されます。富める者が自分の財産のザカーを支払う時、彼はアッラーの法を実践し、そのご命令を遂行することになるのです。またそこには、財産という恩恵を授けて下さった恩恵の主への、感謝の念も含まれています。『もしあなた方が感謝するのなら、われは必ずや、あなた方に上乗せしてやろう。』(クルアーン14:)
  4. ザカーを支払うことによって、社会保障・社会の異なる集団間のバランスを取るという理念が実現します。というのもザカーを、それを受け取る資格のある者に支払えば、財産が社会の限られた集団のみに蓄積されたり、彼らの独占となったりすることがないからです。アッラーは仰せられました。『あなた方の富者の間だけを循環するものとならないように。』(クルアーン59:7)

ザカーが義務づけられる財産

ザカーは、人間が自分の利用のために所有するものには、義務づけられません。自分が住む家は、それがどんなに値段の高いものであっても、ザカーはかかりません。また、たとえ高級車であっても、私用の自動車にはザカーはかかりません。衣服や飲食物も、同様です。

アッラーは、自分が使用する必需品でもなく、成長し、増加する性質のある種類の財産だけに、ザカーを義務づけられました。

  1. 金銀(衣服や装飾品に用いられたものではないもの):

イスラーム法の定量(ニサーブ)に達し、太陰暦で1年間(354日間)経過したものでない限り、ザカーは義務づけられません。 

金銀におけるザカーのニサーブは、以下の通りです:

金:約85グラム。銀:約595グラム。

つまりムスリムがこの量の金銀を所有し、1年経過した場合、その2.5%のザカーを支払います。

  1. 貨幣:その種類や、現物か銀行口座にあるかは問いません。

貨幣のザカーの支払い方:貨幣のニサーブは、金の価値に対応させて計算します。つまりザカーが義務づけられる時期において、それが金のニサーブ(約85グラム)と同等か、それよりも多ければ、その財産を1年間(太陰暦)所有したことを条件に、その2.5%のザカーを支払います。

例:金の値段は変動しますが、ここではザカーが義務づけられる時期における金1グラムの値段が、25米ドルであると仮定します。この場合、そのニサーブは以下の通りです:

25(金1グラムの値段:変動します)×85(グラム数:固定されています)=2125米ドル(ニサーブ)

  1. 商品:

商品の意味は:土地や建築物といった不動産や、食料品や消費品といった動産など、商取引される全てのものです。

商品のザカーの支払い方:商品の対象としているものが1年経過したら、その全ての価値を計算します。市場価格に基づく価値づけの作業は、ザカーを支払おうとするその日に行います。そしてその総額がニサーブに達していたら、その2.5%をザカーとして支払います。

 

  1. 農産物(果物、種子も含む):

アッラーは仰せられました。『信仰する者たちよ、あなた方が稼いだよきものと、われらがあなた方のために大地から出したものの内から、施すのだ。』(クルアーン2:267)

ザカーが義務づけられるのは、農作物でも特定の種類のものだけであり、全部ではありません。また、それはイスラーム法で定められた一定の量に達している必要があります。

また人々の状況への配慮から、雨や川などの水による作物と、給水施設や労働によって給水された作物では、義務づけられるザカーの量に差があります。

  1. 家畜(牛・ラクダ・羊あるいは山羊)。所有者が飼料を負担して食べさせるのではなく、放牧地の草を食べて飼われている家畜にのみ、ザカーがかかります

1年間、あるいはその大半において、飼料で餌付けしている家畜にザカーはかかりません。

家畜のザカーのニサーブと、ザカーの額には細かい規定があるので、法学書をご覧ください。

ザカーを受け取る資格のある人々

イスラームは、ザカーが費やされる対象を限定しています。ムスリムはその内の1種類を対象にすることも、複数の種類を対象にすることも許されていますし、その受給資格のあるムスリムへとザカーを分配する役目を担う、慈善組織・団体に支払っても構いません。そしてザカーを国内で分配することが、優先されます。

ザカーを受け取る資格のある人々は、以下の通りです:

  1. 貧者・恵まれない人々。つまり、必要最低限の物事や基本的需要を満たすことにおいて、十分なものを所有しない人々のことです。
  2. ザカーの収集/分配作業に携わる人々。
  3. 自らを主人から買い取り、解放したいと望んでいる奴隷。このような者は自由民となるために援助され、ザカーを与えられます。
  4. 返済し切れないほどの借金を抱える者。その借金が公的な福利や人々への善行ゆえのものか、個人的な利益ゆえのものかは問いません。
  5. アッラーの道において奮闘する者。つまり宗教と祖国を守るために戦う者です。またイスラームを広め、アッラーの御言葉を威光高きものとするために活動する者も、この中に含まれます。
  6. ザカーによって、その心がイスラームへと近づくことが見込まれる者。つまり新しく改宗した者や、改宗が望まれる非ムスリムのことです。この種類については、個人からのザカーは与えられません。これはそこにおける福利を見積もる、ムスリムの指導者や慈善組織の仕事なのです。
  7. 異邦人の旅行者で、旅を続けることが出来なくなり、お金を必要としている者。たとえ自国では大金を所有していたとしても、ザカーを受け取ることが出来ます。

アッラーは、義務のザカーが配られる対象を明らかにしつつ、こう仰せられました。『施し(ザカー)というものは、貧者・恵まれない者・それ(ザカー収集)のために働く者・(それによって)心が親しむ者・奴隷・債務を抱える者・アッラーの道にある者・旅人のために(支払われるのだ)。』(クルアーン9:60)